Twilight Jeanne

光潰えた無明の闇 黄昏の幽鬼は黒百合を好む

scene311:赤い水、甘き死

王国暦208年1月13日。

予てよりシスコが何かを企んでいるとは聞いていた。
一般公示には新年会の様相を呈していたが、あの男がそれだけをする筈がない。

参加者の中には恐らく私と同じ結論に到達し、企みを阻止しようと画策する者も居た筈だ。
だがそれが判っていても尚、私は彼らと共に会に参加する事は無かった。
単純に時間的な問題や数の問題だけではない。
今の私には、街の「秩序」を代弁する彼らと同位置に立つ資格は無い。…ただそれだけの事だ。

しかし、予測外の出来事が起きた。
シスコ側に付いている伏兵(クロネ、コンラート)が数人潜んでいた事、そして彼らの相手をする為に皆が各個分散の流れになってしまった事である。

ただそれだけならば構わない。
だが中には最初から新年会目的で参加したカーゴのような非戦闘員が含まれており、各個分散の流れが出来上がっている以上、誰も彼女に気を配る者が居ない。
…「魔笛」が奪われた時と同じ構図になりつつあった。

とうとうロンロンが邪なるものを召喚し、シスコがその術で周囲に破壊を齎した時、私は既に跳躍を開始していた。
彼らの戦闘に介入する為ではない。市民が無闇に争いに巻き込まれるのを防ぐ為…、以降の行動もそれに倣ったまでの事。
空間軸の座標が確立しておれば如何なる時、如何なる場所からでも跳躍は可能。
遠見の術を用いていた事と、カーゴ自身があまり動かなかった事が幸いし、カーゴの直前への跳躍と同時にシールドの展開に成功する。

その後、邪なるものに付狙われたり、広場全体が赤い底なし沼に変貌したりもしたが、聖別したアネッタの血を使用し広場全体の浄化を果たし、事なきを得る。
首謀者シスコに協力していたと思われるロンロンを初めとした面子の逃亡を許すが、シスコを包囲する事に成功。…という光景を見届けた所で私は跳躍して帰還を果たす。



私が変わってもシスコやロンロンは相違ない。だが、その主従関係が切れたのは意外だった。
私からすれば、その関係性が遮断された瞬間こそが今宵の彼らの最大の弱点だったように思える。
シスコかロンロンのどちらかに標的を絞り、「どうするか」を明確にしていれば、どちらかは確実に殺すなり捕らえるなり出来て居た筈。
尤も、それを判断し実行するのは実際に剣や魔法を用いてシスコ達と対面したカレルやクロゥファ達であり…私ではない。

事実として彼らは(若干名を除いて)「全員を生かす」という選択肢を選び取った。
それが冒険者の「弱さ」と取るも「甘さ」「優しさ」と取るも…人の勝手だが。
私はシスコが包囲された時点で帰還したが、既に結果は判っていた。
彼らがシスコをどうするかを知らぬほど、この街で過ごした日々は浅くは無い心算。

…旧知の真っ只中にあり過ぎるのを避けた、というのもある。

去り際に彼らより礼を言われるが…私にそんな言葉は不要だ。

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